湯婆婆という存在がこれほど長く愛され続ける理由は、単なるファンタジーの悪者に留まらないリアルな造形にある。八百万の神々が集う巨大温泉宿「油屋」の経営者として、彼女は驚くほど現実的だ。働く意欲のある者には厳しい契約を交わして仕事を与え、店の利益と秩序を死守する。怠惰を許さず、現場のトラブルには自ら陣頭指揮を執る。
夏木マリの演技は、この湯婆婆の「経営者としての凄み」を見事に浮かび上がらせる。理不尽なまでの厳しさの裏にある、組織を守るための冷徹な判断。従業員を怒鳴りつける一方で、愛息の前で見せる崩れた笑顔。そのコントラストを、夏木は声の緩急と大胆な身体表現で表現した。現代社会を生きる大人が彼女の姿にどこか共感してしまうのは、そこに汗と泥にまみれた現実の厳しさが透けて見えるからにほかならない。