舞台上では近寄りがたい威厳を放っていた一色五郎ですが、その素顔を知る関係者の証言からは、芸に対して真摯でありながらも温かい人柄が浮かび上がってきます。
稽古場における一色五郎は、まさに鬼気迫る厳しさを持っていました。わずかな足の運びや扇の角度の狂いも見逃さず、「型をなぞるのではなく、心を運べ」と弟子たちに口酸っぱく説き続けたというエピソードは有名です。妥協を許さない姿勢は、自分自身に対しても向けられており、高齢になっても毎日の発声と基本姿勢の確認を欠かさなかったと伝えられています。
一方で、舞台を降りると非常に情に厚く、後輩や弟子たちの生活や体調を気遣う細やかな心配りを見せました。芸の厳しさと人間的な包容力を兼ね備えていたからこそ、多くの門弟や能楽関係者から深い信望を集め続けたのです。