「忙しい」という言葉は、日常会話で「やることが多くて時間がない状態」を指して使われます。しかし、その漢字の成り立ちと語源・由来をたどると、単なるスケジュールの過密さだけではない、精神的な状態を表す深い意味が見えてきます。
漢字の「忙」は、左側の「忄(りっしんべん=心)」と右側の「亡(なくなる・滅びる・隠れる)」が組み合わさってできた形声文字です。文字通り「心が亡くなる」、つまり「次から次へと物事に追われて、落ち着いて物事を考える余裕や配慮の心を失ってしまう状態」を象徴しています。
また、日本語の古語における「いそがし」は、平安時代には「気が急く」「落ち着かない」という意味で用いられていました。中世以降に「せわしい(忙しない)」や「多忙」といった身体的な忙しさを指す意味へと変遷していきましたが、根底にあるのは「心が急き立てられている」という感覚です。「忙しい」と口にするとき、私たちは無意識のうちに「自分は今、心の余裕を失っています」と周囲に宣言しているとも捉えられます。