やなせ氏が遺した数々の言葉の中で、今なお強い説得力を持つのが「正義の定義」に関する深い省察です。
戦前・戦中、日本中が信じていた「正義の戦い」は、敗戦を迎えた瞬間に「侵略戦争」へと180度評価が覆りました。昨日までの正義が悪になり、悪とされていたものが正義になる――この不条理を目の当たりにしたやなせ氏は、「国家や立場によって変化するような正義は本物ではない」と悟ります。
では、いかなる時代や国、思想の違いがあっても絶対に揺らがない真の正義の定義とは何か。その答えこそが、「飢えて死にそうな人がいれば、敵味方の区別なくパンを差し出すこと」でした。
「本当の正義を行うときは、自分自身も深く傷つくことを覚悟しなければならない。正義の味方は、決して威張ったりカッコつけたりできるものではない」。悪者を力でねじ伏せて喝采を浴びるのではなく、泥にまみれ、顔を汚し、自らの力を失いながらも困っている人に手を伸ばすアンパンマンの姿は、やなせ氏が辿り着いた正義の真理そのものだったのです。