大相撲の世界で「長男」という立場は特殊だ。祖父に元小結の若葉山、父に元幕下の若信夫を持つ相撲サラブレッドの一家に生まれながら、兄弟の先陣を切って荒汐部屋の門をたたいた。しかし、順調に番付を上げていた矢先、過酷な怪我に見舞われる。前十字靭帯の損傷や半月板の痛みに耐えながらの相撲生活は、想像を絶する激痛と恐怖との戦いだった。
「弟たちが関脇や小結に昇進していく姿を見て、焦りや葛藤がなかったと言えば嘘になる」。当時の胸中を近しい関係者はそう明かす。自分が背中を見せるべき長男でありながら、怪我で思うように体が動かない日々。それでも彼は、弟たちの躍進を心から祝福し、自らのリハビリに黙々と取り組んだ。舞台裏で行われていたのは、単なる筋肉の補強だけではない。股割りの角度一つ、立ち合いの角度一つを再構築する泥臭い再調整だった。苦境においても言い訳をせず、泥に塗れて土俵に上がるその潔い佇まいこそが、知られざる彼の素顔である。