大和煮の基本的な味付けは、醤油・砂糖(またはザラメ)・酒・みりんに、たっぷりの生姜を加えた濃厚な甘辛仕立てです。肉の繊維の奥までしっかりと味が染み込んでおり、冷めても脂が固まりにくく、噛むほどに芳醇な旨味が広がる点が大きな特徴となっています。
この大和煮が誕生したのは、明治時代初頭の1881年(明治14年)頃とされています。開発者は、東京の缶詰製造業者であった浅尾吉次郎氏です。当時の日本は文明開化の真っ只中にあり、それまで忌避されてきた獣肉を食べる文化が急速に広がりつつありました。しかし、当時の牛肉やジビエは下処理技術が未発達で、獣肉独特の強い臭みが一般市民にとって大きな障壁となっていました。
そこで浅尾吉次郎氏は、日本古来の調味料である生姜をふんだんに使い、濃口醤油と砂糖でじっくりと煮込むことで、肉の臭みを完全に抑えつつ長期保存に耐えうる画期的な調理法を確立しました。
では、なぜ「大和(やまと)」という名称が付けられたのか。その由来には主に2つの有力な説が存在します。
- 日本独自の調味法を誇る「大和風」説:西洋から伝わった牛肉加工技術に対し、醤油と生姜という「日本(大和)古来の伝統的な調味技法」を融合させて完成させたことから命名されたという説。
- 開発当初の原料肉にちなむ説:初期に奈良県(大和国)周辺の牛肉を用いたことや、当時の国産牛の代名詞的イメージを冠したという説。
食品史や当時の記録を紐解くと、西洋風のシチューや大衆的な牛鍋に対抗し、「日本を代表する至高の肉缶詰」として世界に誇れる商品を目指した開発者の気概が、「大和煮」という格式ある名に込められていることが分かります。