現場の実務では、鉄道会社から遺族へ賠償金が請求されない事例や、大幅な減額に応じるケースも少なくありません。電車自殺において賠償金が請求されない理由には、鉄道事業者側の現実的な判断が絡んでいます。
最大の理由は、故人および遺族の「支払い能力」です。故人にめぼしい遺産がなく、遺族も経済的に困窮している場合、裁判を起こして勝訴判決を得ても回収の見込みがありません。多額の弁護士費用と回収コストをかけて債権を追及するよりも、回収不能(貸倒れ)として処理する方が鉄道会社にとっても合理的です。
また、人身事故の示談交渉において鉄道会社側は、最初から満額回収を狙うのではなく、遺族の置かれた生活環境や支払い能力を慎重に見極めます。遺族側が代理人弁護士を通じて誠意を持って交渉した結果、請求額の1〜2割程度の金額で和解が成立したり、分割払いや実費の一部のみの納付で合意に至ったりするケースが日常的に存在します。