この凄惨な現場に居合わせ、至近距離で父の最期を目撃したのが、当時わずか9歳だった愛娘の渡辺和子である。後にノートルダム清心学園の理事長を務め、多くの人々に愛される教育者・作家となった彼女の人生観には、この早朝の惨劇が深く刻み込まれることとなった。
銃弾が飛び交うなか、父は幼い娘をとっさに座卓の陰に隠し、自らの身体で覆いかぶさるようにして凶弾の盾となった。父の温もりと、直後に流れ出した生々しい血の感触。和子の脳裏には、父が息を引き取る直前に見せた厳父としての威厳と慈愛が終生消えることはなかった。近年公開された親族の手記や未発表メモを再検証すると、将軍は事前に自らへの襲撃の危険性を察知しながらも、警備の強化を頑なに拒んでいた事実が浮き彫りになる。逃げることを良しとせず、武人としての誇りを貫いたその覚悟は、残された家族の証言と照らし合わせることで、より立体的な真実として迫ってくる。