酒類卸のビジネスモデルには、一般消費者はもちろん、飲食業界の初心者ですら見落としがちな大きな盲点が存在します。ネット掲示板などで「倒産間近」「対応が悪化している」と書き込まれる背景には、業界特有の商慣習に対する無理解があります。
最大の盲点は、ビールメーカー各社からの販売奨励金(リベート)の規制強化です。かつて昭和から平成初期にかけての中小酒類卸は、メーカーから支払われる巨額のリベートを原資にして、原価割れに近い価格で飲食店へ酒を納入していました。飲食店への看板設置代や厨房機器の無償リースといった「過剰接待」が成り立っていたのはこのためです。
しかし、国税庁による「酒類の公正な取引に関する基準」の厳格適用により、不当廉売や過度なリベートは完全に禁止されました。現在、中小卸が安易な値引きを行わないのは、経営が悪化しているからではなく、法令遵守(コンプライアンス)の徹底によるものです。
「昔のように値引きしてくれないから倒産しそうだ」というネット上の短絡的な評価は、商慣行の近代化プロセスを取り違えた典型的な誤解です。卸業者を評価する際は、目先の価格だけでなく、安定した供給体制を法に則って維持できているかという視点が欠かせません。