ハムサを語る上で欠かせないのが、複数の宗教文化と複雑に結びついた歴史的背景です。同じ手のひらの形をしていても、文化圏によって呼び名や象徴する人物が異なります。
イスラム教圏では、開祖ムハンマドの娘であり、美徳と献身の象徴とされる女性の名をとって「ファティマの手(Hand of Fatima)」と呼ばれます。過酷な試練にも耐え抜いたファティマの強さと優しさが宿るお守りとして、女性の健康や安産、家庭円満を守護する象徴として崇められてきました。
一方、ユダヤ教においてはモーセの姉である預言者ミリアムに敬意を表し、「ミリアムの手(Hand of Miriam)」として受け継がれています。ヘブライ語の「5」を意味する文字「ヘー(Hamesh)」や、ユダヤ教の聖典「モーセ五書(トーラー)」の「5」とも結びつき、神の救済と加護を象徴する神聖なモチーフです。
さらにキリスト教文化圏の一部では「聖母マリアの手」と呼ばれることもあります。起源を遡ればフェニキア人の月女神タニトの信仰にまで行き着くとされ、特定の宗教一つだけに縛られない、「母性的な愛と無条件の守護」を体現する共通言語として現代まで生き残ってきました。