もともと日本の「年中行事・伝統文化」において、節分に太巻きをかぶりつく風習は大阪の商人街や花街を中心とした極めて限定的な地域行事であった。江戸時代末期から明治にかけて、商売繁盛や無病息災を祈願して大門のあたりで食べられていたとされるが、全国的な知名度は長らく低かった。
風転のきっかけとなったのは、昭和後期に行われた海苔業界の巻き返し策だ。1970年代、大阪の海苔問屋街で「全国海苔貝類漁業協同組合連合会」などの団体が販路拡大のためにイベントを実施し、街頭で太巻きを配るPRを展開した。
さらに平成に入ると、流通の巨人が動く。1989年に「セブン-イレブン・ジャパン」が広島県の一部店舗で「恵方巻」という商品名を冠して試験販売を開始。これが空前の大ヒットとなり、瞬く間に「恵方巻全国普及プロジェクト」とも呼ぶべき全国チェーン展開へと発展していった。
わずか数十年で、特定の地域の珍しい風習は、「食品・コンビニエンスストア産業」の総力を挙げた一大イベントへと進化を遂げた。季節のイベントを巧みにビジネスと融合させた日本の流通文化のダイナミズムがここにある。