灰谷文学の大きなテーマである「反戦」と「人間の尊厳」は、彼自身の家庭が被った戦争の傷痕と不可分だ。太平洋戦争中、長兄を戦場で失った衝撃は、灰谷健次郎の家族にとって生涯消えない心の傷となった。国家という巨大な力によって市井のささやかな幸せが踏みにじられた記憶は、後の執筆活動において確固たる反骨精神へと昇華していく。
特に後年、活動の拠点を移した沖縄で執筆された作品群には、自らの家族の悲劇と沖縄の人々が背負わされた歴史的苦難が重ね合わされている。自らのルーツにある痛みを直視し続けたからこそ、彼の描くキャラクターたちは机上の空論ではない、血の通った現実感をもって立ち上がってくるのだ。