歴史ドラマの枠組みをも打ち破ったのが、1989年に放送されたNHK大河ドラマ『春日局』である。それまで男たちの政治劇や武将の決戦が中心であった大河ドラマにおいて、徳川家光の乳母である一人の女性の生涯を主役に据える挑戦は、放送前から大きな注目を集めた。
権力闘争の陰に潜む人間臭い愛憎や母親としての葛藤に焦点を当て、歴史上の人物を生身の人間として蘇らせた手腕は見事というほかない。過酷な運命に翻弄されながらも己の信念を貫く女性像は、従来の時代劇ファンのみならず幅広い層のテレビドラマファンを魅了し、大河ドラマの新たな可能性を切り拓いた。