日本人の大半が思い浮かべる西郷隆盛の肖像画。太い眉に力強い眼光、引き締まった口元が印象的なあの絵は、イタリア人画家のエドアルド・キヨッソーネが手掛けたコンポジット・ポートレート(モンタージュ画)である。当時、宮内庁印刷局の前身組織でお雇い外国人として紙幣や切手の原版製作に携わっていたキヨッソーネだったが、彼は西郷本人と一度も会ったことがなかった。
徹底した「写真嫌い」として知られた西郷は、明治天皇をはじめとする明治政府の幹部たちが写真を残すなか、頑なにカメラの前に立つことを拒み続けた。暗殺を警戒していたためとも、極度の恥ずかしがり屋だったためとも言われるが、結果として彼が没した直後、公式な肖像画を作成するための視覚資料が皆無という異例の事態に陥ったのである。