森氏の改革は、霞が関内部のパワーバランスにも劇的な変化をもたらした。金融庁の母体である財務省との距離感、そして金融緩和政策を推し進める日本銀行とのスタンスの相違である。日銀のマイナス金利政策が銀行の収益力を削る中、森氏は金融機関の体質改善を促すことでマクロ経済の歪みに抗おうとした。
その思想が凝縮されたのが、毎年公表される金融行政方針だ。官僚的な美辞麗句を排し、歯に衣着せぬデータと実態分析で埋め尽くされたこの文書は、業界の必読書となった。過去の規制に安住する官僚主義を排し、対話とディスカッションを通じて本質的な課題を浮き彫りにする「プリンシプル・ベース」の監督手法。それは官民の力関係を決定的に塗り替える試みだった。