舞台から映画館へと目を移せば、近代興行の巨頭である東宝株式会社が仕掛けてきた映画ビジネスの現場でも、この満員の熱狂が巧みに活用されてきた。
宮崎駿監督が手がけた『君たちはどう生きるか』の興行展開は、その象徴的な事例だ。事前の宣伝を極限まで削ぎ落とし、予告編すら流さない異例の戦略の中で、初週末の劇場を埋め尽くした観客たちの熱量が最大のプロモーションとなった。座席予約表が「満席」で埋まる視覚的インパクトが、SNSを通じて瞬く間に波及。「早く見に行かなければ乗り遅れる」という心理的飢餓感を生み出し、劇場へと大衆を駆り立てた。スクリーンの前に生まれた物理的な満員の空間が、そのまま最強の広告塔へと昇華した瞬間である。