キャリアの決定的な転機は、40代を迎えて訪れた。映画監督・北野武との出会いである。
1993年公開の映画『ソナチネ』のオーディション。遅刻して会場に駆け込んだ大杉は、すでに審査が終わっていたにもかかわらず、北野監督の目に留まった。「もう一回やってみて」。その場で読んだ台詞の数行が、監督の直感を強く揺さぶったという。結果、沖縄へ送り込まれるヤクザの幹部・片桐役に抜擢された。
静寂の中に突如として暴力が炸裂する北野映画独特のトーンにおいて、大杉の放つ乾いたリアリズムは完璧に調和した。続く『HANA-BI』(1998年)では、凶弾に倒れて車椅子生活となり、絵画を描くことで孤独と対峙する元刑事・堀部役を熱演。言葉を失った男の諦念と命の輝きを表現し、日本アカデミー賞をはじめとする数々の映画賞で助演男優賞を総なめにした。
北野武という異才との化学反応によって、日本映画界は大杉漣という無二のピースを決定的に認知することになったのである。