『崖の上のポニョ』は、圧倒的なスケールで描かれる水の描写や幻想的な世界観が魅力の冒険ファンタジーだ。だが、その壮大な物語を地に足の着いたものに繋ぎ止めているのが、そうすけの家庭環境と父親の存在である。
船の上から無線の光で家族と会話を交わす耕一のシーンは、物語前半の名場面として名高い。長嶋一茂の演じる耕一の声は、荒波を越えるタフさと、遠く離れた家族を想う温もりを兼ね備えていた。ファンタジーの波が街を飲み込んでいく中でも、彼の声が存在することで、観客は物語の現実味を見失わずにすむ。耕一という男の素朴なリアリティが、作品全体のバランスを絶妙に保っていたと言える。