東京・世田谷の静かな住宅街にある人気ベーカリー。早朝5時、薪窯から立ち上る煙とともに、香ばしい小麦の香りが漂う。店内には、無骨ながら美しいクープ(切れ込み)が入ったバゲットやサワードゥ(サワー種パン)がずらりと並ぶ。店主のシェフは「かつては『もっと柔らかくしてほしい』という要望もありましたが、今はむしろ『酸味の強いハードパンが欲しい』と指名買いするお客様が増えました」と語る。
2026年現在のパン業界を象徴するのは、イースト菌に頼らず、レーズンやリンゴ、さらには酒かすや小麦の皮から自社培養した自家製酵母(サワー種)を使用する「職人系クラフトベーカリー」の急増だ。発酵に24時間以上を費やす低水温・長時間発酵法により、小麦本来の甘みと乳酸菌による複雑な酸味が引き出される。量産パンとは一線を画す深い味わいが、コアなパン愛好家だけでなく、一般の日常食としても愛されるようになった。