排卵日を境におりものの状態が劇的に変わる背景には、女性の体内を巡る2つの主要ホルモン、すなわちエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の急激なバランス変化があります。排卵直前、受精を助けるためにエストロゲンの作用で透明かつ牽引性の高い(指で伸ばすと10cm以上伸びるような)卵白状のおりものが分泌されますが、排卵が完了すると主役はプロゲステロンへと交代します。
プロゲステロンには、受精卵が着床しやすいように子宮内膜を厚く維持し、外部からの細菌侵入を防ぐために子宮頸管を閉鎖する働きがあります。そのため、排卵後の黄体期に入ると、分泌液の水分が減少し、白濁して粘り気が強いペースト状へと質感が移行するのが標準的な女性の生理周期です。これが一般的な「生理前のおりものの特徴」の基礎構造です。
では、いわゆる「妊娠超初期症状としてのおりもの」と何が決定的に異なるのでしょうか。受精卵が着床した場合、将来胎盤になる絨毛組織からhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が分泌され始め、黄体の分解を食い止めてプロゲステロンの分泌をさらに持続させます。このホルモンの高止まりや、骨盤内の血流増加によって「おりものの量が減らずに増える」「サラサラした水っぽい状態が続く」と感じる妊婦が存在するのは事実です。
しかし、産婦人科臨床の場において、排卵後数日から1週間程度の段階では、着床によるホルモン変化が生理前のホルモン変化と数値上明確に乖離するわけではありません。つまり、排卵後のおりものの性状だけで妊娠の有無を断定することは、内分泌学的な見地から見ても極めて困難なのです。