物語の太い骨格を形作るのが、元囚人のジャン・バルジャンと警部ジャベールの容赦なき対峙です。パンを盗んだかどで19年の服役を余儀なくされたバルジャンは、司教の圧倒的な慈愛に触れることで過去を捨て、他人を助ける善人へと生まれ変わろうと誓います。しかし、彼を死ぬまで「犯罪者」として追いつめるのがジャベールでした。
法律と規則こそが絶対であり、一度悪に染まった人間が改心することなどあり得ない——。ジャベールが抱くその揺るぎない信念は、バルジャンの善行や赦しの行為と直面するたびに激しく揺さぶられます。単なる追撃者と逃亡者の鬼ごっこではありません。自己のアイデンティティと正義のあり方を問う魂の闘いであり、二人の相克こそが作品全体の緊迫感を支える最大の原動力となっています。