日本において殺人罪などの公訴時効が撤廃されたのは、2010年(平成22年)4月27日のことです。改正刑事訴訟法が国会で可決・成立し、異例の「即日施行」というスピードで適用が始まりました。それまで存在していた「時間の経過によって犯人を不問にする」制度が抜本的に見直された背景には、複数の決定的な要因が存在します。
最大の要因となったのは、DNA型鑑定をはじめとする科学捜査技術の飛躍的な進化です。従来の法制度では、年月が経つと目撃証言の曖昧化や物証の劣化が生じ、正確な事実認定が困難になることが時効の根拠とされていました。しかし、微細なDNA試料から犯行当時の状況を正確に特定できる現代の鑑識技術は、その前提を根本から覆したのです。
もう一つの大きな原動力が、遺族たちの切実な叫びと社会的な正義の実現でした。2009年には殺人事件の被害者遺族が集まり、「宙の会(殺人事件被害者遺族の会)」が結成されました。「犯人が逃げ延びれば罪に問われない不条理を許してはならない」という遺族の精力的な署名活動と法改正への強い訴えが世論を動かし、短期間での法改正実現へと結びつきました。