昔の日本人は、正月だからといって遠くの有名な神社へ出かけるようなことはしなかった。初詣の遠い原形とされるのは、平安時代から続く「年籠り(としこもり)」という習慣だ。これは集落の家長が、大晦日の夜から元旦の朝にかけて、地元の氏神が祀られている社にそのまま籠り、徹夜で新年の豊作や無事息災を祈願するという極めて静かな神事であった。
やがて時代が下り、江戸時代になると庶民の移動が少しずつ自由になり、「恵方参り(えほうまいり)」が爆発的な流行を見せる。恵方参りとは、その年の歳徳神(としとくじん)が居るとされるめでたい方角(恵方)に位置する神社や寺院を参拝する風習だ。学問の神様として高名な菅原道真を祀る天満宮など、恵方に当たった社寺には大勢の町人が押しかけ賑わいを見せた。しかし、この時代の参拝はあくまで「方角」が最優先であり、毎年決まった有名な神社へ行くという概念自体が存在しなかった。日本の伝統文化における正月参拝は、本来きわめてローカルで流動的なものだったのだ。