中世の暗黒を象徴する黒死病ですが、2026年の現在において私たちはどのように向き合うべきなのでしょうか。結論から言えば、現代医学においてペストは「早期に発見できれば完治が可能な細菌感染症」へと変貌を遂げています。
1894年、香港で起きたペスト流行の最中に、日本の誇る細菌学者・北里柴三郎とフランスのアレクサンドル・イェルサンがほぼ同時にペスト菌の同定に成功しました。この発見が契機となり、20世紀半ばにペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質が開発されたことで、人類はついにペスト菌に対抗する絶対的な武器を手に入れました。
現在では、発症早期にストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ドキシサイクリンなどの抗生物質を投与することで、かつて50〜100%だった致死率は10%未満にまで激減します。日本国内においては1926年以降、国内発生例は1件も報告されておらず、感染症法上の「一類感染症」として厳格な水準で水際監視体制が維持されています。
しかし、ペスト菌が地球上から根絶されたわけではありません。世界保健機関(WHO)の最新統計でも、アフリカのマダガスカルやコンゴ民主共和国、ペルー、さらにはアメリカ合衆国西部の野生動物密集エリアなどにおいて、年間数百件規模の局所的な感染例が報告され続けています。野生のプレーリードッグやリスなどと不用意に接触することで感染する事例は今なお後を絶たず、多剤耐性菌の出現に対するサーベイランスも世界規模で続けられています。