敵対的買収。そのショッキングなニュースが赤坂のTBS本社を揺らしたのは2005年のことだ。破竹の勢いで拡大を続けていた三木谷浩史氏率いる楽天グループが、TBSの株式を突然買い増し、筆頭株主へと躍り出た。ネットと放送の融合を掲げるIT企業の急襲に対し、当時の経営陣が立ち上げたのが電光石火の買収防衛プロジェクトだった。
井上弘氏は、放送メディアの公共性と独立性を死守するため、一歩も引かない構えを見せた。単なる株式の買い増し合戦に終わらせず、認定放送持株会社体制への移行というウルトラCを断行。これにより特定外資や外部資本による過半数握りを制度的にブロックする道を開いたのだ。数年に及ぶ泥沼の交渉の末、楽天側は撤退を余儀なくされた。この歴史的敗退劇こそが、現代のテレビ放送業界における経営防衛のひな型となった。