米マサチューセッツ州ケンブリッジ。世界最高峰の学府であるハーバード大学のキャンパスに、偽名を使ってひっそりと通学していた東洋人女性がいた。彼女こそが習明沢だった。心理学と英語を専攻した彼女は、24時間体制のボディガードに囲まれながらも、周囲の学生たちには目立たないよう細心の注意を払っていたという。派手な生活を好み、ボストンの高級コンドミニアムを乗り回す他の「紅二代」(党幹部の子弟)とは一線を画す地味な立ち居振る舞い。それは、父親の反腐敗キャンペーンに泥を塗らないための冷徹な計算でもあった。
大学関係者の証言によれば、彼女は読書を好み、講義では議論を注意深く観察するタイプだった。西側の自由な学問空間で培われた批判的思考が、母国の全体主義体制とどのように折り合いをつけているのか。卒業後に帰国した彼女の足取りは再び途絶えたが、米国の学術エリート層の心理を直に体験したその経験は、現在の党指導部の対米認識にも少なからぬ陰影を落としている。