日本映画監督協会をはじめとする映画関係者の間でも、ヤン・ヨンヒ監督と荒井カオル氏が示してみせた「個人の記録を社会の記憶へと昇華させる手法」は高く評価されている。ドキュメンタリー映画業界では長年、撮影者と被写体の倫理的関係が議論されてきたが、自らの婚姻関係すらも作品の文脈として昇華させ、普遍的な人間愛へと着地させた手腕は圧巻だ。
彼女が手掛けた一連のノンフィクション映像作品は、個人の家庭劇でありながら、東アジアの現代史そのものを照射している。荒井氏という「外部の視点」が入ることで、重苦しい政治的文脈が解きほぐされ、観客にとっても身近な問題として立ち上がってくるのだ。