千代の富士を語る上で欠かせないのが、彫刻のように引き締まった筋肉美と「ウルフ」という愛称です。この愛称は、入門当時に見せた精悍な顔立ちと、獲物を狙う狼のような鋭い眼光から名付けられました。若い頃の写真を見ても、力士のイメージを根底から覆すような体脂肪率の低さと均整の取れたプロポーションが際立っています。
しかし、その美しい筋肉の鎧は、相撲人生を揺るがす致命的な弱点を克服するために生まれたものでした。幕内昇進前後の千代の富士は、左肩の「習慣性亜脱臼」に激しく苦しめられていました。少しの衝撃で肩が外れてしまい、休場や負け越しを繰り返す日々。一時は力士生命の危機に立たされます。
そこで千代の富士が下した決断が、「関節が外れるなら、筋肉の鎧で関節をガチガチに固めてしまえばいい」という前代未聞の肉体改造でした。
当時の大相撲界では珍しかった本格的なウエイトトレーニングを導入し、毎日500回から1000回に及ぶ腕立て伏せを徹底的に敢行。徹底した鍛錬の結果、肩周辺に分厚い筋肉のプロテクターを完成させ、脱臼癖を完全に封じ込めたのです。体重約120キロ前後という軽量でありながら、筋力とスピードを極限まで融合させた相撲スタイルを確立しました。