巧緻な心理サスペンス劇としての本作には、初見では見落とされがちな伏線が幾重にも張り巡らされている。物語前半に登場する古びた懐中時計の秒針の狂い、鏡に映る登場人物の視線のズレ、そして何気ない日常の会話に潜む欺瞞のサイン。これらすべてが、終盤の破局へと収束していく。
本格ミステリー映画の緻密な構造美を誇りながら、予定調和を徹底して排除した展開は圧巻の一言。制作陣によれば、劇中の部屋の壁に掛けられた絵画の構図すらも、結末の心理状態を予告する暗号として配置されていたという。こうした無数の仕掛けが、観客を二度、三度と劇場へ向かわせるリピーター現象を生み出している。