西原家の歩みは、そのまま日本の出版・漫画業界におけるエッセイコミックの歴史と重なる。1990年代から2000年代にかけて、クリエイターの私生活をありのままに描く手法は爆発的な人気を誇った。しかし、SNSが普及し、情報が半永久的にデジタルアーカイブされる現代において、そのあり方は大きな転換期を迎えている。
子供のプライバシー権や、本人の意思とは無関係にパブリックイメージが形成されるリスク。鴨志田一氏が歩んできた道のりは、後進の漫画家や編集者にとっても「表現と家族の保護」という重い問いを突きつける事例となった。
だが、彼は被害者として留まることを拒んだ。自分自身の現実を自分で定義し直すことで、漫画のキャラクターという呪縛を自ら解き放ったのだ。このしなやかな強さこそが、デジタル社会における彼の真の凄みと言えるだろう。