1902年に出版を手がけた出版社フレデリック・ウォーヌ社とポターとの間には、出版に至るまで様々な議論が存在した。当初、あまりにもリアルで時には残酷とも言える描写や、白黒の自費出版からスタートした原案に対して、商業出版としての調整が重ねられた。しかし、ポターはお父さんがパイにされたという設定と、その世界観の根幹を成すテーマを譲ることはなかった。
実は、初版本の挿絵には、マグレガー夫人が焼き上がったパイを手に持っている刺激的な図版が掲載されていた時期もあったとされる。後の版では直接的な残酷さを和らげるため掲載が見送られるなど、挿絵の選定を巡っては細かな推敲が重ねられた。読者の想像力を刺激する「語られなさ」の中にこそ、ポターの緻密なストーリーテリングの計算が隠されている。