厨房の奥では、巨大な木桶と発酵種が静かに呼吸を続けている。この店を唯一無二たらしめているのが、代々受け継がれてきた発酵種と、職人が探求を重ねる天然酵母・サワードウの技術だ。気候や湿度によって表情を変える生き物を相手に、職人たちは指先の感覚と五感を研ぎ澄ませて対話する。
クラスト(外皮)は力強く香ばしく、クラム(内相)は驚くほどみずみずしくもっちり。噛みしめるほどに広がる複雑な酸味と甘みは、短時間のイースト発酵では決して生み出せない深みを持つ。「パンは生き物であり、諏訪の風土そのもの」。そう語る職人の言葉通り、八ヶ岳山麓の澄んだ空気と清らかな水、そして長年蔵に棲み着いた微生物たちが、この極上の味わいを醸成しているのだ。